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2007年11月12日 (月)

小説 リゾート開発スキャンダル

2007年11月16日 仏滅 天気曇り 気温28度

私は日本最南端に位置する沖縄県与嘉敷市の市長、小浜長影。今年で76歳になる。3期無投票のあと久しぶりに昨年の選挙では相手をわずかな差で破り当選。身長158センチ、体系はメタボリックシンドロームを象徴するのような体型、口の悪い市民は私のことを「アバサー」と呼ぶらしい。

ポリネシアの大きな木彫りや中国の壷が並ぶ市長室で一人新聞を読む目はうつろで「アバサーはヤマト言葉ではハリセンボンだったかな」 「いやいや、今はそんなことどうでもいい」とうなづいたり、首を横に振りながらぶつぶつ独り言を言っている。

「そんなことよりデスクの上の書類に判子押さねば」と午前中は額に汗をかきながら体系に似合わずてきぱきと仕事をこなした。

市長室 午後2時 パソコンの画面には今朝飛び込んできたデーワハウスに関する新聞社発行の記事が映し出されている。「デーワハウスの子会社デーワリゾートが20億円の不正経理で数日内に東京地検が強制捜査」

曇りなのに湿度が高く頭がボーとしていた。ニュースが気にはなっていたが私は昼飯に食った大盛ゴーヤチャンプル定食と大盛ソーキそばで眠気を催し、パソコンのキーボードに手を置いたまま仕事に励んでる振りをしていた。東京の事件のことよりも眠気の方が勝っていた。

「アバサーまた居眠りしてるー」 秘書課の女性たちは市長の首ががくっと後ろにひっくり返る度にくすくすと笑っている。

「ピョロピョロ、ピョロピョロ」そんないつもの昼が突然鳴り出した電話の呼び出し音で中断することになった。相手は聞き慣れた声だった。

「琉球毎日放送の大城ですが」 

「なんね、きょうは」 

「市長、デーワハウスの事ですがね」

「知ってるよ。強制捜査でしょう」

大城はベテランの放送記者で自分でもカメラを回す仕事を30年続けている。私のよき相談相手でもあり、時々は強烈な批判もする。お互い気心は知れている。

「デーワハウスのリゾート計画に反対するグループが市長に面談するといってもうじきそちらに行きます。私らマスコミも一緒ですからね」

「わー、めんどくさー。 また島ナイチャーの連中が来るわけ? 彼らは屁理屈こねるんよね。助役に対応させるから」

「アバサーね。いや小浜市長ね。今日は違いますよー。JCの我喜屋や市議の花城も一緒ですから」

「アギジャビヨー!デージ! でも今すぐはだめだよ。一時間後いや二時間後で調整してくれるね。頼んだよ」

私は外出中の総務部長の西里を呼び戻し対応策を練ることにした。

「西里さんね。彼らは何をしに来るのか調べてくださいね」

「ハイ、もうすでに情報は掴んでおります」

市役所内ではカミソリの西里と呼ばれ、頭の切れは市役所歴代一。身長183センチ、43歳の若手ながら役所の仕事は彼なしでは進まないといわれている。私は全幅の信頼を寄せている。秘書課の女性たちには大もてで、ちょっと嫉妬している。

「彼らは今回のデーワハウスの不祥事で公開質問状を持って来るとゆうております」

「質問ってどんなこと聞くの」

「恐らくリゾート開発を推進する市長に今回のデーワハウスの事件を受けて、今後の市の対応を迫ることになるのでは」

「そうね。まあそんなところだろうね」

「しかし、あのことは聞かれないだろうね」

「あのことといいますと?」

「前回の選挙の前に会ったでしょうが。デーワハウスの清川さんと。”ホテル島一番”でコンパニオンなんかとやったこと」

「アレは絶対に漏れていませんから大丈夫です」

「何しろ選挙には金というものが必要以上にかかるからね。企業が献金するといってきたのを断ることもできなかったからね」

「大丈夫、市長。少しでも弱気を見せると彼らは突っ込んできますから」

急に二人は小声になり、ドア向こうの秘書たちの顔を覗き込むようにして首を伸ばした。二人のその姿はまるで鶴と亀のようであった。

「とにかく、資料集めておいてちょうだいね~」とあとは西里君に任せた。

彼は今は私の腹心である。でも次の選挙に出馬されると負けるな、とふとそんな心配が頭をよぎった。 

窓から見える井渡名島はやや霞んでいる。私はコーヒーを飲んだこともありすっかり目が覚め、キューバ産の葉巻をくわえ13年間の市長経験を思い出しながら、こう言ってきたら、アー言うことにしよう、などと脳みそをフル回転させた。

相手はどこの馬の骨かわからないフリーター生活の島ナイチャーたちではあるが、恐ろしく知識を持った連中であるしどうもその中の一人は国立大法学部出身という噂もあるのだ。気を引き締めようと思いながら葉巻を灰皿にのせた。

午後4時ちょうど秘書から反対派グループ総勢20人が来たことを告げた電話が入った。

「20人は多すぎるな。報道を入れると30人近くになるだろう。半分だけ応接室に入れるように西里君にいってくれる」と受話器を置き、短い腕を2,3回まわし気合を入れた。

市長室隣の応接室には資料を持った助役、総務部長が反対派とすでに対峙していた。

応接室のドアを開けるとテレビカメラマン4人、新聞記者4人をあわせた18人が待ち構えていた。

「ハイ、どうも皆さんご苦労様です」といつもの余裕で軽く会釈し中央の席に座った。

反対派と顔を合わせるのはこれで3回目である。一度目はデーワハウスが20階建てのリゾートホテル計画を発表した時だった。反対派数人が私と面談したいというので会ったのが一年前だった。その時は計画は島の景観や環境を破壊するとして市は計画に同意しないように要請してきた。その時に会った長谷川という男には参った。何しろ頭の回転が速く、情報量も豊富で役場に欲しいほどの男だったからだ。見たところまだ20代後半。筋肉質で肉体労働で鍛え上げた中肉中背の背筋を延ばした姿勢が印象に残っていた。

「やあ、長谷川君。今日はどうしました?いやに急なので驚いていているんだが」

「すいません。市長は前日に連絡するといつも明日は出張でいないとかで逃げられると思ったものですから」

「そんなことは」と私は首を横に振った。

「それに我喜屋さんと花城さんも来るというので商工会と約束があったのをキャンセルしたんだから」

「それはどうもありがとうございます」と数人が声を出しお礼を言った。面談は緊張感が漂いながらも穏やかに始まった。

すでにテレビカメラは赤いランプが点灯し撮影が始まっているのがわかった。

すっくと立った長谷川はすぐに話を切り出した。

「市長もすでにご存知かとは思いますが、デーワハウスが不正経理を行っていたとの報道がありました。私たちはこのリゾート開発に反対しており市長が推進されているこの計画を見直していただきたく質問状を持ってきました」

「うん、いいですよ。もらっておこうね」と私も立ち上がり手を出そうとするといきなり彼は質問状を読み始めた。

カメラのフラッシュがシャッター音と共に光った。テレビカメラが私から長谷川君にパンした。何人かの記者とカメラマンは我々の姿を撮影しようと場所を正面へと移動した。

長谷川はいつもより大きな声で質問状を読み始めた。

「公開質問状! 与嘉敷市長、小浜長影殿」

「長谷川君、そんなに大きな声を出さんでも。充分聞こえる距離でしょう」と私は眉間に皺をよせた。

長谷川は少し躊躇し声が止まった。

琉球毎日放送の大城がファインダーから目を離して「長谷川さんそのまま続けて」と促した。

また大城が余計なことを、と思いながら仕方なく私はそのまま質問状の内容を聞いていた。

質問状の内容はおおよそ予想したとおりだった。デーワハウスの不祥事をどう捉えているか。与嘉敷市としての今後対応は。市の景観条例に違反するのではないか。内心ほっとし質問状を受けとろうとして手を伸ばしかけた時だった。

長谷川は続けてこう質問した。

「前回の市長選挙の投票日の10日前、市長はデーワハウスの清川氏とホテル島一番で会いましたね」

「うーん、どうだったかな。ちょっと記憶にないにな」

心音が全身に響いた。額からは脂汗が流れ出してきた。私は平静を装った。

「ここに一枚の写真があります」と長谷川は続けた。

超ミニスカートのコンパニオンがテーブルの上にあがって踊っており、その下で私とデーワハウスの清川がねじり鉢巻で顔を上げ、両手に握った一万円札を突き上げてなにやら叫んでいる姿があり、ピンぼけながら確かに私らの興奮状態の写真が、彼の手にはあった。

私は、助役の向こう隣に座っている総務部長の顔を見た。部長はまっすぐ前を向いたまま平然としている。

「これは私ではないぞ。弟だ」とっさに出た声はひっくり返った裏声になっていた。

カメラのフラッシュが一斉にたかれた。記者たちは差し出された写真に目が釘付けになっていた。

「どうなんですか。これはあなたでしょう?」長谷川の声は落ち着いた声になっていた。

「市長、こうなったら本当のことを言ってください」 西里総務部長が冷ややかな声で私を諭すように言った。

「そ、そうだ私だ」体から力が抜けていくのがわかった。何秒か過ぎ、はっとして西里部長の顔を再び見た。

その顔から写真の提供者が彼であることに私は気がついた。

翌日、私は市内の病院にいた。マスコミの取材から逃れる為には入院するのが一番の方法だった。

病室のテレビからは昨日の応接室での様子がニュースで繰り返し流されていた。西里部長が今回のデーワハウスのリゾートホテル建設計画は白紙に戻ったと会見で語っていた。

その顔は次期市長としての自信に満ち溢れた表情であった。

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